最高裁判所の決定について   

 

 我々弁護団は、国による詐欺的取引というべき緑のオーナー制度による被害者の被害回復を求め、国家賠償請求訴訟を提起し、一審および控訴審において、国の説明義務違反を認められ、一部の原告については国に賠償を命じる勝訴判決を得ました。しかしながら、国による消滅時効の援用あるいは除斥期間の経過を理由に、大部分の原告について敗訴判決が下されました。

この判断は、除斥期間について、あるいは時効制度における権利濫用法理の解釈適用についての最高裁判所の判例を踏襲するものでした。

しかしながら、我々弁護団は、本件が、過去に例を見ない国による詐欺的行為による特殊な取引であり、また、契約から分収まで20年ないし30年という長期間を要するという特殊性に鑑み、除斥期間に関する最高裁判所の平成元年判決の判例変更を求め、あるいは損害概念についての解釈や信義則または権利濫用法理の適用を巡って、最高裁判所に判断を委ねました。

しかし、このたび最高裁判所は、我々の主張を容れず、上告原告らの請求を棄却し、かつ上告状を受理しないという、いわゆる門前払いの決定を下しました。

この最高裁判所の決定は、我々の今までの活動の趣旨を受け容れることなく、極めて多数の被害者について実質的に司法的救済の道を閉ざすものであり、被害者にとって到底受け容れ難い結果と言わざるをえません。

現在、我々は、第6次訴訟を新たに提起し、大阪地方裁判所において訴訟活動を遂行していますが、引き続き被害者の救済を求めて参ります。

また国は、裁判所が認定したとおり、緑のオーナー制度において多数の契約者に対し違法な勧誘を行い、多大な損害を与えたことを真摯に受け止めるべきです。

違法な勧誘の事実を否認し続けた挙句、時効等の制度を盾に責任逃れの態度に終止することは、国に対する国民の信頼を著しく損なうものであって、何ら国の利益にはなりません。

国は従前の態度を改めて、契約者に対する抜本的な救済措置の検討を直ちに開始するよう求めます。

 

平成28年10月20日

緑のオーナー被害者弁護団

団長 弁護士福原哲晃

弁護団声明

 

 本裁判は、国が、若年木であった山林の持分権を商品化して30年後に公売して得られる代金を配当するという「緑のオーナー制度」を創設し、昭和59年以降平成10年までの長期間にわたって、林業の素人である都市住民に対して出資を募り、結果、大多数の出資者に多大な損害を与えたことに対し、制度の欠陥を明らかにするとともに、被害は国が募集時に十分な説明を尽くさなかったことにより生じたものであることを指摘して国の責任を追及し、出資者である控訴人(原告)らに対する損害の填補を求めた訴訟である。

 国は、木材需要・木材価格が、制度創設当時にあって既に長期下落傾向にあり、将来的にも下落が予測可能な状況にあったにも関わらず、破綻状態にあった国有林野事業の財政を救済するために、将来の資産価値やインフレヘッジ等のメリットを強調し、他方では、木材需要・木材価格の動向や同商品に内在する分収価格評価の特殊性やリスクについては何ら説明することなく国民の国に対する信頼を利用し、募集を停止するまでの間に約8万6000人の国民から500億円余りの出資を集めた。ところが、実際に分収が始まると、出資者は出資額に見合わぬ少額の分収金しか受領できず、さらには、木材が売れずに契約期間満了後も分収金が得られない出資者(不落)も多数発生する事態となった。

 杜撰な制度に国民を巻き込み損害を与えながら、国は、緑のオーナー制度は森林の整備育成という公益目的の制度であるとして、被害者に対してなんらの賠償も行わず、本件訴訟に至っても一貫して自らの責任を否定し続けている。

 

 我々弁護団は、このような国に対して、国としての信義を問うべく訴訟活動を行ってきた。

 一審・大阪地方裁判所は、国は元本割れの可能性を出資者に説明すべきであったとの判断を示し、一部の原告については救済を図ったが、国が元本保証はしない旨をパンフレットに記載した平成5年後期以降に出資した原告については、説明義務違反なしとして請求を棄却し、さらに、平成5年前期以前に出資した原告に対しても、契約から20年を経過して提訴した者については除斥期間の経過を理由として、分収実施から3年を経過して提訴した者については消滅時効を理由として、それぞれ請求を棄却した。

 一審判決は、「緑のオーナー制度」における国の勧誘のあり方についての問題点を端的に指摘し、国に対し説明義務違反を認めた画期的な判断を示しており、国の信義を問うという本件訴訟の趣旨が、一部ではあるが認められたことについては評価できた。しかしながら、一審判決が認定した説明義務の内容及び範囲は狭きに失するものであり、かつ、多くの原告に対して、形式的に20年の除斥期間あるいは3年の短期消滅時効を適用して請求を棄却したことは極めて不当というべきものであった。

 緑のオーナー制度で原告らが出資し購入した山林は、いずれも植林して10年程度の若年木であり、分収期(伐採期)に至って伐採され分収されるまで20年から30年もの長い期間を要するものである。それ故、契約期間も長期で、契約時に損害を予期することなど不可能で、分収期に至って初めて具体的な損害が判明するものである。しかるに、一審判決は、このような本制度の特質について何ら思い致すことなく、形式的に除斥期間、短期消滅時効を適用し、結果として多くの原告らの被害救済を切り捨てるものであった。もちろん、このような欠陥のある制度を作った国が、まさにその制度の被害者である原告らに対し、除斥期間や消滅時効を主張して被害の切り捨てを行うこと自体、国民の信頼を踏みにじるものであって許されるものでないことはいうまでもない。

 

 よって、原告らは、上記一審判決に対し、直ちに大阪高等裁判所に控訴し、一審での原告敗訴部分についての取り消しを求め、原告ら全員の勝訴を勝ち取るべく訴訟活動を行ってきた。

 

 しかるに、本日、大阪高等裁判所第6民事部は、平成5年6月30日以前の契約については過失相殺を認めず、すなわち出資者に落ち度がなく違法な勧誘であったことを認めたものの、平成5年7月1日以降の契約分について国の説明義務違反を認めず、除斥期間や消滅時効の判断については、原告らの主張になんら応えることなく一審判決と全く同様の判断をしており、極めて不当である。

 除斥期間の論点につき、判決要旨では「原告らが除斥期間内に権利を行使しなかったことについて、被告の側に責めるべき事情があり、諸般の事情に照らし、除斥期間の経過を理由に損害賠償請求権を消滅させることが著しく正義公平の理念に反すると認められる特段の事情がある場合には、権利消滅の効果は生じない」としつつも、弁護団が主張する具体的事実に目を向けることなく、「分収育林制度の運用状況や元本割れリスク等が国会やマスコミにおいて度々取り上げられてきた経緯等」の事実のみで特段の事情を認めない判断を示した。上記判断は、原告らにとって、あずかり知らぬ事情を取り上げ、特段の事情がないと強弁するものであって、到底受け入れることはできない。

 控訴審判決は消滅時効の起算点についても一審判決同様分収時と捉えているが、原告らは国の不法行為により損害を受けたと認識し得ない状況に置かれていたのであり、「損害及び加害者を知った時」を分収時として捉えるのではなく、原告らが弁護団から分収育林契約の問題点について説明を受けた時点と解し、救済されるべきである。

 

 かかる控訴審判決の判断は誤りであり、我々弁護団は、このような結論を断じて受け入れるわけにはいかない。速やかに上告を行い、上告審で控訴審の判断の誤りを正すべく、さらなる訴訟活動を行う所存である。

 

平成28年2月29日

 

緑のオーナー被害者弁護団

団長 弁護士福原哲晃

弁護団声明

 

 われわれは、国が「緑のオーナー制度」と称して創設した分収育林事業による被害者の被害回復のため、国に対し、平成21年6月5日の第一次提訴をはじめとして五次に亘って損害賠償請求訴訟を提起し、国の責任を追及するとともに被害の早期回復を求めてきた。

 本事件は、投資対象として一般の国民には決して身近な存在とは言えない国有財産である山林を国民に販売し被害を生じさせた、まさに国による消費者被害事件である点にその特質がある。

 すなわち、国は、我が国の国有林野事業の厳しい財政状況に鑑み、収支改善策の一つとして、昭和59年に、約30年生の若年林の持分権を一口25万円ないし50万円で販売し、20~30年後に成長した山林を公売して得た代金を配当(分収)するという分収育林事業(「緑のオーナー制度」)を創設し、販売を開始した。 

 しかしながら、販売開始当時において、既に、外材自由化、住宅需要の減少や非木質建材の多様化等により立木価格は長期下落基調にあり、契約満期(分収期)における分収額(分配額)が販売価格を下回る、いわゆる元本割れに至る具体的危険性が存在していた。本制度における投資リスクについては、制度創設に際しての国会審議、あるいは、林野庁委託事業による財団法人林政総合調査研究所調査報告書(昭和55年「国有林野事業における特定分収契約の設定に関する調査」)においても懸念が示され、保護措置の必要性が指摘されていたのである。それにもかかわらず、国は、あえて保護措置を設けることなく制度化し、緑資源としての山林の維持保全という美辞麗句の下、多数の国民の善意を利用し、投資リスクが高い山林であるにも関わらずリスク情報を一切提供せず、むしろ、インフレヘッジと称して金融商品としての有利性を強調する等の詐欺的商法を押し進め、その結果、全国で延べ8万6千人から契約口数延べ10万口、総額500億円もの契約を獲得したのである。

 しかし、当然のことながら、販売開始後も立木価格は下落基調のまま推移し、その結果、初めて分収期を迎える平成11年度以降、多くの山林において分収額が元本割れになる可能性が濃厚となったことから、国は、平成11年に、突然、同年度以降の募集を停止して制度そのものを事実上廃止するに到った。

 本訴訟は、原告ら239名の被害救済という目的にとどまらず、広範囲に、多数の被害者を生み出し、多額の被害を発生させた国の責任を問うものであり、判決の結果は、全国に存在する被害者の救済に向けた国の施策の必要性を示唆するという意味で極めて重要な意義を有している。

 われわれ弁護団は、本訴訟において、国の具体的な説明義務違反の事実、すなわち、元本割れの可能性、元本保証の不存在並びに出資価格決定方法の不確実性などを適切に説明すべきこと、及び2階建木造家屋相当の木材価値が得られる、或いは定期預金より有利な金融商品である等といった断定的判断を提供していた事実を指摘し、国の責任を追及した。

 本日、大阪地方裁判所第13民事部は、林野行政を行う国と契約者の間には情報格差があり、契約者らは国を信頼して分収育林契約を締結するのであるから、国は分収育林契約の申込みと勧誘を行うにあたり、分収育林契約の内容等について、分収金の総額が払込額を下回ることはないとの誤解が生じ得るような場合には、このような誤解に基づいて契約を締結させることのないよう、契約者らに理解させるために必要な方法及び程度により説明すべき信義則上の義務を負うとして、我々の基本的な主張を認めた。

 しかし、勧誘時に使用されたパンフレットに契約者に対する元本保証をしない旨の記載がなされた平成5年後期以降に初めて契約をした原告に対する説明義務違反はないとした。

 さらに、分収育林契約締結時から起算して訴え提起時までに20年が経過している原告については、民法724条後段の除斥期間が経過したものとして、請求を棄却した。

 また、分収育林契約に基づく分収が行われた時から訴え提起時までに3年が経過している原告らについては、消滅時効が完成しているとして請求を棄却した。

 また、請求を認容された原告についても、3割ないし5割の過失相殺を認めた。

 上記裁判所の判断は、国に説明義務違反が認められるとしたことについては、行政のあり方を質す意義を認めると共に、被害者救済に叶うものであって、評価すべきである。

 しかしながら、平成5年後期以降に契約した原告については、パンフレットに元本保証がないことをもって説明義務違反を否定することは論理の飛躍があるというべきである。

 また、原告らが国と締結した契約期間は20年を超え、かつ途中解約が認められていないのであるから、原告らは契約期間が終了するまで損害発生の認識ができない。大阪地方裁判所の判断は、およそ契約期間が長期間に渡る場合の不法行為責任を追及する道を閉ざすものであるだけでなく、20年の期間制限に関する平成14年の最高裁の判断や近時の民法改正において上記期間制限を「消滅時効」と捉えようとする動向に反しており不当と言わざるを得ない。

 また、分収から3年を経過した原告らの請求について時効消滅を認めた点については、山林事業についても法律の解釈についても全くの素人である原告らに対し、国の説明義務違反に基づく損害賠償請求を強いるものであり、酷に過ぎるだけでなく、全国に存在する被害者に対し、実質的に被害救済の道を閉ざすものであり、到底容認することは出来ない。

 また、過失相殺を行ったことについては、むしろ、杜撰な制度設計を行った国に大きな過失があったのであり全く承服できない。

 

 われわれは、速やかに控訴を行い、控訴審で一審の判断の誤りを正すべく、訴訟活動を行う所存である。

 

平成26年10月9日

 

緑のオーナー被害者弁護団

 

団長 弁護士 福 原 哲 晃